「歯が抜ける」と聞くと、ずっと先の話だと思っていませんか? 実は、歯を失う原因は、若い世代から静かに忍び寄っています。
今回は、大切な歯を1本でも多く守るため、歯が抜けやすくなる「サイン」と「原因」、そして今日からできる「守るためのケア」を、分かりやすく解説します。
なぜ歯は抜けるの?知っておきたい「3大原因」
自分の歯で一生食事を楽しみたい。誰もがそう願っていますが、残念ながら日本では多くの人が歯を失っているのが現実です。では、なぜ歯は抜けてしまうのでしょうか。その主な原因は、事故などよりも「病気」や「癖」にあります。特に知っておくべき3つの大きな原因を見ていきましょう。
参考元『第2回 永久歯の抜歯原因調査 報告書|8020推進財団』
第1位:静かに進行する脅威「歯周病」
歯を失う最大の原因は「歯周病」です。2018年の調査では、抜歯原因の第1位で37.1%を占めています。
歯周病は、歯を支える土台(歯ぐきや骨)が細菌によって静かに壊されていく病気で、ギネスブックで「世界で最も一般に蔓延(まんえん)している感染症」といわれるほどです。初期段階ではほとんど痛みを感じないため、気づいた時には重症化していることが多い、非常に怖い病気です。
第2位:放置が命取りに「虫歯」
「虫歯(う蝕)」は、抜歯原因の29.2%を占めます。虫歯は歯の表面を溶かす病気です。これを放置して悪化させると、歯の神経(歯髄)まで達し、激しい痛みを引き起こします。
さらに進行すると、歯の根っこしか残らない状態や、根の先に膿が溜まる状態になります。こうなると治療が難しくなり、最終的には歯を抜かざるを得ない状況になるのです。
第3位:意外と多い「歯の破折(はせつ)」
第3位は、歯が割れたり折れたりする「歯の破折」で、17.8%です。硬いものを強く噛んだ時だけでなく、意外な理由で起こります。
注意したいのが、過去に神経を抜いた歯(失活歯)です。神経を抜いた歯は栄養が届かずにもろくなり、枯れ木のように割れやすくなります。また、無意識の「歯ぎしり」や「食いしばり」も、健康な歯にさえ過度な負担をかけ、ヒビや破折の原因となります。
【データで見る】年代別!歯を失う理由の違い
興味深いことに、歯を失う原因は年代によって変わります。比較的若い世代では「虫歯」が原因で歯を抜くケースが多いのに対し、働き盛りである40代頃からは「歯周病」の割合が急激に増え、虫歯を逆転して最大の原因となります。つまり、若い頃は虫歯予防、年齢を重ねたら歯周病予防が、歯を守るための重要な戦略となるのです。

あなたの歯は大丈夫?「抜けやすい歯」の危険サイン
歯が抜ける原因がわかったところで、次は「抜けやすい歯」の特徴、つまり危険なサインをチェックしましょう。これらのサインに気づくことが、早期発見・早期治療への第一歩です。
サイン1:歯ぐきが赤い、腫れている、血が出る
これは「歯周病」の典型的な初期サインです。健康な歯ぐきは引き締まったピンク色ですが、炎症が起こると赤く腫れぼったくなります。
歯磨きの時に血が出るのは、歯ぐきが「助けて!」と悲鳴を上げている証拠です。決して「強く磨きすぎた」と見過ごしてはいけません。
サイン2:歯がグラグラする、食べ物が挟まりやすい
歯を指で押すと少し動く、または食べ物が以前より歯と歯の間に挟まりやすくなったと感じたら、要注意です。
歯周病が進行して歯を支える骨が溶け始めているか、あるいは噛み合わせの力が強すぎて歯が動揺している可能性があります。
サイン3:冷たいものや熱いものがしみる
「知覚過敏かな?」と軽く考えがちですが、これも危険なサインの一つです。
虫歯が神経に近づいている可能性や、歯周病で歯ぐきが下がり、刺激に敏感な歯の根元(象牙質)が露出している可能性が考えられます。
サイン4:過去に神経を抜いた歯(失活歯)
先ほども触れたように、神経を抜いた歯は「抜けやすい歯」の代表格です。
痛みを感じないため虫歯の再発に気づきにくく、また、非常にもろくなっているため「歯の破折」を起こしやすい状態になります。被せ物の中で問題が起きていても気づきにくいのです。
サイン5:歯ぎしりや食いしばりの癖
朝起きた時に顎が疲れていたり、歯がすり減っていたりしませんか? 歯ぎしりや食いしばり(ブラキシズム)は、自分の体重の何倍もの力を歯に加え続けます。この過度な力が、歯にヒビを入れたり、歯周病の進行を早めたりする原因となります。

歯が抜けると起こる影響を知ろう
「たった1本抜けただけ」と軽く考えてはいけません。歯を失うことは、お口の中だけでなく、全身の健康や日常生活にも様々な影響を及ぼします。
噛みにくさと食事の変化:栄養バランスへの影響
歯が抜けると、当然ながら噛む力が低下します。
奥歯を失うと、硬いものや繊維質の多い野菜などを細かく噛み砕くことが難しくなります。その結果、無意識のうちに柔らかい炭水化物中心の食事に偏りがちになり、栄養バランスが崩れてしまうかもしれません。
歯並び・かみ合わせが乱れ、他の歯まで負担がかかる
歯は、お互いに支え合ってバランスを保っています。1本でも抜けたまま放置すると、そのスペースに両隣の歯が倒れ込んできたり、噛み合っていた反対側の歯が伸びてきたりします。
これにより全体の歯並びや噛み合わせが乱れ、残っている他の健康な歯に余計な負担がかかり、次の歯を失う原因にもなりかねません。
見た目や発音の変化など、日常生活への影響
前歯を失うと、見た目の印象が大きく変わってしまいます。人前で笑うことに抵抗を感じたり、会話がしにくくなったりすることもあるでしょう。
また、歯と歯の隙間から空気が漏れることで、「サ行」や「タ行」などが発音しにくくなるなど、日常生活にも支障が出ることがあります。
歯を守るために。今日から始める「本気のケア」
抜けやすい歯のサインや、歯を失う影響を知ると、不安になるかもしれません。しかし、歯を守るためにできることはたくさんあります。大切なのは、日々の地道なケアと、プロによるメンテナンスです。
基本の「き」:毎日のセルフケアを見直そう
歯を守る基本は、やはり毎日の歯磨きです。「磨いている」と「磨けている」は違います。歯と歯の間、歯と歯ぐきの境目など、プラーク(歯垢)が残りやすい場所にしっかり歯ブラシの毛先が届いているか、鏡を見ながら確認しましょう。
デンタルフロスや歯間ブラシの併用は、歯ブラシだけでは落とせない汚れを取るために非常に効果的です。
プロの力を借りる:「予防」のための定期検診
セルフケアだけでは、残念ながら100%の汚れは落とせません。「歯石」は歯ブラシでは取れず、歯周病菌の温床となります。歯科医院での定期検診は、この歯石の除去(クリーニング)や、自分では見つけられない初期の虫歯・歯周病を発見してもらう「予防」のために行く場所です。
痛くなってから行くのではなく、健康を守るために通いましょう。
「割れ」を防ぐ:噛みしめる力から歯を守る
歯ぎしりや食いしばりの癖がある人は、歯科医師に相談しましょう。寝ている間の無意識の力から歯を守るために、「ナイトガード」と呼ばれるマウスピースを作成するのが一般的です。
これは歯の破折を防ぐだけでなく、歯周病の悪化を防ぐ助けにもなります。
守りを固める:生活習慣と食生活
歯の健康は、口の中だけの問題ではありません。喫煙は歯周病を悪化させる最大の危険因子の一つです。また、だらだらと甘いものを食べ続ける食習慣は、虫歯のリスクを飛躍的に高めます。
規則正しい生活とバランスの取れた食事が、巡り巡って歯の健康も支えるのです。
歯を守るために、今できること
「歯のケアは大切」と頭ではわかっていても、行動に移すのは難しいものです。しかし、未来の自分のために、今できることから始めてみませんか。
抜けそうな歯、ない?歯医者でチェックしておこう
「最近グラグラする歯がある」「血が出ることが増えた」など、この記事で紹介した「危険サイン」に心当たりはありませんか?
早期発見・早期治療は、歯を守るための最大のカギです。少しでも不安があれば、手遅れになる前に、まずは歯科医院でプロのチェックを受けましょう。
1人でがんばらなくてOK!歯医者さんと続けるケア
毎日のセルフケアは大切ですが、一人で完璧に続けるのは大変です。磨き残しは必ず出てしまいますし、歯石は自分では取れません。
セルフケアで「守り」、定期検診で「整える」。私たち歯科医師や歯科衛生士が、あなたの歯の健康をサポートするパートナーとして伴走します。
80歳で20本残す!「8020」を本気で目指そう
「8020(ハチマルニイマル)運動」という言葉を聞いたことがありますか? これは「80歳になっても自分の歯を20本以上保とう」という国の目標です。
20本以上の歯があれば、ほとんどの食べ物をしっかり噛んで、美味しく食べることができると言われています。ぜひ、この「8020」をあなたの目標にしてみませんか。

未来の「自分の歯」を守るために
歯を失う3大原因は歯周病・虫歯・破折です。「歯ぐきから血が出る」「少ししみる」といった小さなサインは、あなたの歯が発している重要な「助けのサイン」かもしれません。「まだ痛くないから大丈夫」と見過ごすことが、数年後に「あの時ケアしておけばよかった」という後悔につながるかもしれません。
大切なのは、日々の正しいセルフケアと、プロによる定期的なチェック(検診)です。
この記事を読んだ今日が、あなたの歯の未来を守るスタートラインです。私たち伴場歯科医院では、患者様一人ひとりのお口の状態に合わせた予防ケアと、早期発見・早期治療を何よりも大切にしています。もし少しでも気になるサインがあれば、決して放置せず、どうぞお気軽にご相談ください。一緒に大切な歯を1本でも多く守っていきましょう。