差し歯や被せ物が取れたときに行くべき?

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差し歯や被せ物が取れたときに行くべき?

突然「カチッ」と音がして口の中で違和感…。差し歯や被せ物・詰め物が取れると、戸惑いと不安でいっぱいになりますよね。痛みがないと「少し様子を見ようかな」と考えがちですが、歯科では早めの受診が基本です。

今回は、なぜ取れるのか、放置のリスク、今日からできる応急処置、歯科での治療の流れまでを、できるだけやさしく解説します。

詰め物・被せ物・差し歯が外れるのは「偶然」ではありません。お口の中は温度変化や唾液、噛む力が常に加わる過酷な環境です。そこに虫歯や歯茎の変化、歯ぎしりなどが重なると、少しずつ適合が崩れ、ある日ふと外れることがあります。

接着剤にも寿命がある

歯科用セメントは長期間の使用で徐々に劣化します。温度差や咀嚼力で微小な隙間が生じると、唾液や汚れが入り込み、さらに接着力が落ちて外れやすくなります。材料自体の質だけではありません。装着時の状況やその後のメンテナンス状況も寿命に影響します。

見えない虫歯が原因のことも

被せ物の縁や詰め物の下で虫歯(二次カリエス)が進むと、土台の歯が脆くなり接着も効きにくくなります。見た目が変わらなくても内部で進んでいることがあるため、外れたのをきっかけにレントゲンや検査で状態を確認することが大切です。

歯ぎしり・食いしばりという見えない圧力

寝ている間の歯ぎしりや、日中の無意識の食いしばりは想像以上の力がかかります。繰り返しの過負荷は修復物をわずかに揺さぶり続け、接着面の劣化や金属・セラミックの微小な変形を招いて外れの引き金になります。

歯の根や歯茎のトラブル

歯周病で歯茎が下がると、以前は隠れていた縁が露出して段差が目立ち、汚れが溜まりやすくなります。歯の根にヒビや破折がある場合も適合は保てません。土台側の問題は付け直しても再発しやすいため、原因を見極めた上での治療が必要です。

痛みがなくても、外れた状態は歯や歯茎を守る壁がなくなった状態です。時間が経つほど汚れが溜まり、噛む力の負担も偏ってトラブルが連鎖します。「今は困っていない」うちに進行して、治療が複雑になることは珍しくありません。

むし歯や歯周病が一気に進行することも

外れた部位は凹みや段差ができ、歯ブラシが届きにくくなります。食べかすや細菌が溜まりやすく、冷たい・熱いといった刺激も直接伝わるため、神経が炎症を起こして突然ズキズキ痛むこともあります。

放置していると歯が欠けたり割れたり

露出した歯は守りが薄く、食事の力で欠けたり薄い壁が割れたりしやすくなります。小さな欠けでも適合がさらに悪化し、結果的に抜歯のリスクが高まることがあります。

ズレたかみ合わせが全身に影響することも

対合する歯が伸びてきたり、隣の歯が倒れ込んだりして、元の被せ物が戻らなくなることがあります。噛みやすい側に偏る習慣がつくと、顎や首・肩のコリ、頭痛など全身の不調につながることもあります。

「つけ直せばいい」は甘くない?再利用できないことも

外れた修復物が変形・破損していたり、土台が虫歯で大きく失われていると再接着は困難です。作り直しとなれば通院回数や費用の負担が増えるため、早期受診が結果的に負担を軽くします。

基本は「落ち着いて保管」「清潔に保つ」「刺激を避ける」です。自己流で戻そうとせず、受診までの環境を整えましょう。

落ち着いて、まずは外れた物を安全に保管

外れた詰め物・被せ物・差し歯は軽く水ですすいで汚れを落とし、清潔な小さな容器やチャック付き袋に入れて保管します。ティッシュに包むと捨ててしまったり、潰れて変形する恐れがあります。誤嚥予防のためにも口の中に戻さないでください。

歯のまわりはやさしく清潔に保つ

食後は水で優しくうがいし、歯ブラシは毛先を柔らかく当てて周囲だけ軽く清掃します。しみる場合は冷たい・熱い・甘いものを避け、外れた側で硬い物を噛まないようにします。フロスや歯間ブラシは無理に通さず、痛みや出血がある場合は控えてください。

焦って自己処置をすると、その後の治療が複雑になったり、歯を余計に傷めることがあります。短時間の「応急」でも避けましょう。

自分で差し込む・市販接着剤を使う

位置ズレのまま噛むと歯が欠けたり割れたりします。一般の接着剤は口腔内での使用を想定していません。粘膜を傷めたり、有害成分や接着残渣が再装着を邪魔することもあるため、結果的に大きく削って外さざるを得ないケースもあります。

指や舌で触りすぎる・その側で強く噛む

何度も触ると細菌が入りやすく、刺激で炎症や痛みが悪化します。外れた側でガムやナッツなどを噛むのは避け、できる範囲で反対側を使いながら、受診まで安静を保ちましょう。

どうしてもすぐに来院できない場合は、外れた部位を守りながら悪化を防ぐことが大切です。基本は清潔、安静、刺激回避の三本柱になります。無理をせずに数日を乗り切り、できるだけ早く受診につなげましょう。

刺激を避ける食べ方・飲み方のコツ

温度差の少ない柔らかい食事を、外れた側を避けてゆっくり噛むのがコツです。硬いナッツや氷、粘着性の強いお餅やキャラメルは歯に負担がかかるため控えましょう。飲み物は常温が安心で、キンと冷えたものや熱いものはしみやすく痛みを誘発します。

強い吸い込みは内部の刺激になることがあるため、ストローの使い方もほどほどにして、口内に食片が溜まったと感じたら水でやさしくすすいで清潔を保ちます。

市販鎮痛薬の使い方と注意点

痛みが強いときは、添付文書に従って市販の鎮痛薬で一時的に和らげることは可能です。ただし、胃腸が弱い方や抗凝固薬を服用中の方、妊娠中・授乳中の方は自己判断を避け、薬剤師や医療機関に相談してください。

いずれの薬も原因そのものを治すものではないため、痛みが治まっても受診を先延ばしにしないことが重要です。歯や歯茎に直接鎮痛薬を当てる方法は粘膜を傷めるおそれがあるため行わないでください。

診察では視診とレントゲン、必要に応じてかみ合わせの確認を行い、外れた原因を特定します。再接着でいけるのか、作り直しが必要なのかを見極め、治療計画と費用の目安を丁寧に説明してから進めます。

「再接着できるか」は歯と修復物の状態次第

外れた修復物が変形しておらず、土台の歯に虫歯や破折がなければ、清掃と調整ののち再接着できることがあります。同じ見た目でも適合の精度とかみ合わせの微調整が仕上がりを左右するため、再装着後の噛み心地の確認までしっかり行います。

虫歯や破損がある場合は新しいものを作成

虫歯が進行していたり修復物が破損している場合は、虫歯の除去と土台の整形を行い、新たに型取りまたは口腔内スキャナーでデータ採得をして作り直します。素材は保険の金属や樹脂、自由診療のセラミックやジルコニアなどから、見た目、強度、清掃性、金属アレルギーの有無、費用感を総合して選択します。

仮歯で対応しながら治療を進めることも

前歯や噛む力が強くかかる奥歯では、最終的な修復物が完成するまで仮歯で歯を保護します。仮歯は外れやすく強度も控えめなため、硬いものを避けて丁寧に扱うことが大切です。見た目や発音が気になる部位では、可能な範囲で審美性にも配慮した仮歯を選びます。

長持ちさせるポイントは、劣化を早期に見つけること、過剰な力から守ること、毎日のプラークコントロールを徹底することに尽きます。

定期検診で「取れそう」を事前にキャッチ

縁の段差やセメントの劣化、二次虫歯は早期発見ほどダメージが小さく、再接着や小修理で済む可能性が高まります。プロによるクリーニングで汚れをリセットしつつ、かみ合わせの変化も定期的にチェックしてもらいましょう。

歯ぎしりや食いしばりを防ぐ対策を

就寝時のマウスピース(ナイトガード)は修復物と歯の両方を守る実用的な方法です。日中は上下の歯を接触させ続けない意識づけを行い、作業中の食いしばりに気づいたら一度深呼吸をしてリラックスします。姿勢やストレスも影響するため、生活習慣の見直しも有効です。

毎日のケアが一番の予防策

フッ化物配合の歯みがき剤でのブラッシングに加えて、フロスや歯間ブラシで被せ物の縁の汚れを落とすことが重要です。甘い飲食の回数を減らし、就寝前の間食を控えるだけでも虫歯リスクは下がります。ドライマウス傾向がある場合は水分補給や唾液腺マッサージも役立ちます。

様子見がかえって悪化を招く場面があります。次のような症状がある場合は、できるだけ早く歯科に連絡してください。

強い痛み・腫れ・発熱などの緊急性が高い症状

ズキズキと夜間も続く痛み、噛めないほどの痛み、頬や歯茎の腫れ、開口しづらい状態、発熱や飲み込みにくさがある場合は急性炎症の可能性があります。抗菌薬や処置が必要になることがあるため、早急な対応が望まれます。

前歯が外れて見た目や発音に支障がある場合

見た目の問題だけでなく、歯の保護や発音のためにも仮歯を含めた早期の応急処置が有効です。放置すると周囲の歯が動き、以後の治療が難しくなることがあります。

乳幼児・高齢者・基礎疾患がある方の注意点

誤嚥や食事量の低下、全身状態の悪化につながるリスクがあるため、自己判断で様子を見るのは避けましょう。糖尿病や心疾患のある方、免疫力が低下している方は感染が広がりやすいことがあるため、より早めの受診が安全です。

修復物が取れるのには必ず理由があります。放置は虫歯や破折、かみ合わせのズレなどを招き、治療が長引いたり選択肢が狭まることにつながります。まずは外れた物を安全に保管し、口の中をやさしく清潔に保ちながら、できるだけ早めに歯科を受診しましょう。適切な診断と処置、そして日々のケアと定期検診が、再発を防ぎ歯を長く守る近道です。

お口のトラブルや気になる症状がある方は、どうぞお気軽にご相談ください。地域に根差した歯科医院として、皆さまのお悩みに丁寧に向き合います。